2015年12月18日

軽減税率ではなく、給付付き税額控除を行うべき

 私は自民・公明両党が12月16日に決定した、消費瀬税の軽減税率制度には問題が多すぎると思っています。2017年4月の消費増税を前提とした上で、景気への悪影響を減らし痛税感を和らげ、社会保障財源を確保しながら持続可能な社会をつくる、という困難極まる課題に立ち向かうためには、さしあたっての低所得者層対策としては、軽減税率ではなく給付付き税額控除を行うべきです。

 私は、そもそも消費税の逆進性に関して懐疑的な立場です。ここでは詳しく触れませんが、ある時点での年収に占めるその時の税負担ではなく、その人の生涯収入に占める税負担で考えた場合、消費税はむしろ公平性が高い制度だと考えます。高所得者がヨリ多くの消費を行いヨリ多くの消費税を納め、低所得者がヨリ少ない消費をしヨリ少なく消費税を納めるのだとすれば当然の原理です。

 それはともかく、何よりも問題なのは、軽減税率は低所得者対策であるとの建て付けですが、その効果は極めて限定的で所得再分配が望めないということです。家計支出において最初に削減対象となるのはどこの家庭でも食費です。軽減税率は当然ながら高所得者にも適用されますが、高所得者はより多くの飲食をします。そうだとすれば、高所得者がより多くの恩恵を受けることになります。これでは本末転倒です。

 線引きに関する説明がわかりにくいところも問題です。苦肉の策なのでしょうが、トレーにのっている食料品が余分に課税されて、それ以外が課税されないというのは不明瞭です。印刷物の中で、新聞だけが対象外なのも不可解です。欧米では活字文化を守るために、広く印刷物が対象になっていますが、宅配の新聞だけが対象となるのは、メディアからの批判をかわすためと言われても仕方がないのではないでしょうか。

 日本経済を支える中小企業の現場が、税率が複数になることによって混乱することも明らかです。実務家からすれば、制度はわかりやすく例外が少ない方が良いと決まっています。複雑で不明瞭な制度は仕事の能率を著しく下げるばかりか大幅なコスト増を招きます。税理士会を初めとした多くの団体が軽減税率導入に反対している中で、現場のご苦労にもっと耳を傾けるべきではないでしょうか。

 代替財源の議論が皆無であることも問題です。本来、消費増税は社会保障財源に充てることが公約でした。財源が減るのなら、サービスを削るか、再増税で賄うのか二つに一つです。1兆円の税収減をどうするのか、不都合な話が先送りにされています。自民党の心ある幹部が、口々に批判的なコメントを出していることが実情を物語っています。これでは自公連立政権が参議院選挙対策のバラマキを行っていると言われても反論できないでしょう。

 税金は安い方が良いというのは共通のホンネです。けれども、個人が独りでは生きていけず、互いに助け合わなければならないとすれば、所得応分の税負担をお願いした上で、痛税感を和らげるような制度設計が求められます。日本の将来を真剣に考えるのであれば、負担を子どもたちに押しつける愚行は止めるべきです。厳しい現実を見据えながらも希望のもてる政策を我々は語るべきで、次世代育成支援や女性の活躍支援などの人への投資をもっと深めたいと思います。
posted by 村越ひろたみ at 23:08| 政治放談